「伊丹さんって、何でその年で独身なんですか!?」
「……はあ?」
「そこ突いちゃーだめだよ、ちゃん。先輩がかわいそー」
「えー、何ですか、それ。ちっとも身が入ってないじゃないですか、芹沢さん!」
「そんなことないよー」

へらへらと笑いながら、芹沢さんが軽く口笛を吹く。あたしは本気なのに、芹沢さんっていっつもそう!

「もう、真面目に聞いてくださいよ!あたし、本気で伊丹さんのこと心配して……」
「それじゃあちゃんが先輩と結婚してあげれば?」
「はっ……あ!?」

あたしは腹の底から捻れた声を出して、思い切り芹沢さんを睨みつけた。何がどうしてどうなったら、あたしがあの伊丹さんと結婚するの!?

「なに言ってるんですか!そんな冗談、伊丹さんが可哀相ですよ!」
「えー、そんなことないって。この間だって先輩、ちゃんがネクタイ直してあげたとき、まんざらでもなさそうだったじゃん」
「はい!?そんなはずないです!だって、だってだって伊丹さんってば……」

どうしよう、どうしよう。でもまさかひょっとして芹沢さん、あれだけ近くにいて気付いてないなんてこと……。どうしよう、言っちゃってもいいのかな。きょろきょろと辺りを見回して、近くの廊下に知り合いのいないことを確認してから、芹沢さんの袖をぐいぐい引っ張る。なに、まんざらでもなさそうなのは芹沢さんの方なんじゃない?
「だって伊丹さんって三浦さんのこと好きなんでしょ!?」
、二十五歳の新人刑事。

大物が来たなーと他人事のように独りごちる、芹沢慶二、三十歳であった。
(08.03.30)