「…………だああぁぁぁぁ」
ホシを追いかけるときだって、こんなに走ったことはない。息の継ぎ方すら忘れ、咳き込みながら空っぽのホームに崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。
8時35分の新幹線。
まだ間に合う。まだいける。まだ。汗ばんだ手でハンドルを握り、車を飛ばす。まだいける。まだ。その先の信号が、憎い。
意味もなく、舌打ちを繰り返す。サイレンを鳴らして突っ切りたいと、このときほど感じたことはない。
(チクショウ、何で東京駅じゃねーんだよ!)
あいつの信じる神とやらがいるのなら、それに向けて、毒づく。まだ、まだいける。まだ間に合う。まだ。
半ば乗り捨てるようにして、駆け出す。時計を確認する暇すら、惜しい。在来線の人混みを蹴散らして、走った。まだ、ある。まだ、あと5分。3分。2分……、。
「お客様
」
「だああぁぁ!うっせぇ!警察だ!退け!」
いつもの癖。引き剥がすようにして取り出した警察手帳を見せて、改札を無理やり飛び越える。大きな荷物を持った乗客が擦れ違い様にこちらを見ていく。まだ、まだだ。まだ。
空っぽのホームに立ち尽くし、崩れ落ちるようにしてその場に倒れ込んだ。ぐったりと、ポケットのケータイを取り出して、力なくそれを放り出す。鳴らない。鳴らせない。あと一分。いや、三十秒でいい。たったそれだけの時間。いくらでも割いてやれたはずだった。
6時の駅で、また会いましょう