「それじゃあ……バイバイ」
「……ああ」
この手を、今ここで離したとして。
次にあなたの顔を見られるのは、一体いつになるのかなぁ。
8時35分の新幹線。
諦めも悪く、改札前のチケット売り場で立ち往生。チェックのスーツケースに、新幹線の中で食べる夕食のサンドイッチ。レモンティー。用事もないのに、取り出したケータイを片手でもてあそんでみる。それで手持ち無沙汰がどう解消されるわけでもないのだけれど。
うつむいた自分の睫毛がどんな風に上向いているか、考えてみる。アイメイクには気合いを入れてきた。新幹線からローカル線へ、乗り継ぎを済ませたらあとは眠るだけだというのに。
手鏡を取り出して、さり気なく覗き込む。瞬きを繰り返して、パンダになっていないか。
約束をしたわけじゃない。きっと、無理。それでも最後の最後まで、改札に入るのを躊躇う。まだ、ある。まだ、あと5分。3分。2分……、。
明日でもいいかも。ふとそんなことを考えて、かぶりを振る。ポケットのチケットを取り出して、指定席の確認。出発は、8時35分。何度見たところで、魔法のようにそれが変わるわけでもない。
ため息を、ひとつ。スーツケースを引きずって、歩き出す。最後に一度だけ構内を振り向いて、チャイムが急かす列車へと乗り込んだ。
指定の座席、窓際に落ち着いて。ようやく、懐からケータイを取り出す。鳴らない。待ち侘びた呼び出しはない。
これで、最後。大きなため息を、もうひとつ。倒れ込むようにして背もたれに身体を預け、単調に流れていく大都会の夜景を見送った。
6時の駅で、また会いましょう