いつの間にやら、毛布から肩が出てしまっていた。
軽く身震いし、身体を布団の下にずらしながら彼のもとに擦り寄る。
静かに寝息を立てる彼の胸は ほっ とするくらいに温かく、背中を丸めて思わず頬を綻ばせる。
好きな人の隣。
どこにいても。
何をしていても。
愛する人がそばにいてくれたら、それだけで元気が出る。安心する。
今この瞬間も
こうして眠っているだけで。
「……ん」
小さな呻き声とともに、彼が僅かに身じろぎする。起こしてしまったかとこっそり顔を上げると、彼は僅かに唇を開いたまま眠り込んでいた。
思わず苦笑し、ゆっくりと上半身だけを起こす。よほど疲れていたのだろう、彼はまったく気付いた様子もなく眠り続ける。
はだけた胸元にそっと毛布を掛けなおしてやりながら、彼女は首を巡らせてカーテンのかかった窓を見た。穏やかな陽光が零れてくる。
「……ねえ、聞こえる?」
私には聞こえるよ。
あなたと同じ時間を過ごすようになって。あなたを想うようになって。想われるようになって。
私には、聞こえるようになったよ。
「聞こえる?」
そっと触れるだけの口付けを落とすと、彼は唸るようにきつく眼を閉じてから、ゆっくりとその瞼を開いた。
「おは、よ……ん」
茶化すように言ったその言葉は、すぐさま彼の唇に塞がれて途切れた。
捻じ込まれた舌の感触に、カッと身体の奥が熱を帯びる。そのキスの間の切れ切れに、やっとのことで言を紡ぎ出す。
「……霜柱の……音が、する……」
深い口付けを続けながらも、彼の瞳が窓の外を向いた。
実際に聞こえたのは、鳥の微かなさえずりと、部屋に響く湿潤の音だけだったが。
「……聞こえる」
そう言った彼の瞼が、眩しげに細められた。
聞こえる。
霜柱の音と、あなたの鼓動。
(06.10.08 Thanks! title from Plumaile (closed) - photo from ミントBlue)