「……あーあ、降りだしちゃったね」
「ああ」
「ずいぶんひどいね」
「ああ」
「傘忘れちゃった。どうしよ、すぐにやむかな?」
「ああ」
「………もう!」
上の空、な俺の反応に、あいつは子供のように声を荒げて怒る。
「ねえ、聞いてる?」
「ああ」
「もう!だったらなんか言ってよ、さっきからずーっとその調子」
「ああ……悪い悪い」
すっかり拗ねたらしいあいつはこちらに背を向けて黙り込んだ。
小さな民家の軒先の下、叩きつけるように降り続ける雨の飛沫が冷え冷えとシャツに染み込む。
あいつの白いワンピースも、ぴたりとその痩せた身体に張り付いていた。
思わず抱き締めようとして すんでのところで、こらえる。
(こいつは……男の気持ちってもんを分かってないよな)
けれども、やはり。あいつの後ろ姿を見ていると、いかにも凍えているのがよく分かる。
(はぁ……どうしてくれるんだ、こいつ)
仕方ない。震えるあいつの身体を後ろから抱き締めると、氷のように冷たい。
あいつは面食らったように振り向いたが、すぐに目を細めて嬉しそうに笑った。
「あったかい」
「そーか?」
「早くやむといいね」
「そーだな」
まったく。
抱き締めるあいつの身体にきつく触れて、鼓動が速まるのを知られないように。
「でもたまには……こういうのも、いいかもね」
「そーだな」
人の気も知らないで。
さて。
雨が上がれば
(さあ、どうしてやろうか)