03 視界、遮断




貴方が好きで堪らない

出会ってからずっと、思っていたこの想い

だけど貴方を困らせたくないから

私は瞳を閉じる





誰も居ない特命係の一室で、私はただ一人机に突っ伏していた。扉を閉めれば、外の雑音は聞こえない。
静まり返った室内で、私は突っ伏したまま、視界に入った席を見つめていた。

「秘密って難しいなぁ・・・」

そう呟いた私の声は、何処か諦めと苦しみが混じっていた気がする。
ただ単に好きだと、そう言ってしまえばどんなに楽だろうか。口まで出掛ける言葉にもどかしささえ思う。



・・・だけど貴方を困らせたくないから



ふと出てきた言葉に、私は突っ伏していた頭を上げ、瞳を閉じて、思考から遠のかせた。

「・・・大丈夫、このままで良い」

好きだとは言わないから・・・そう言って私は静かに瞳を開け、自分のデスクに視線を移した。デスクの上に広がった書類。
事件を調べるために出て行った杉下と亀山が帰ってくるまで、ある程度は終わらせなければいけない。
そう思い、手前の書類に目を通そうとした瞬間、ふと視界が暗闇に包まれた。



「え?」



誰かの手によって私の視界が塞がれたと気が付き、私は慌ててその手を退かそうと、塞いだ手に触れた。
暖かい、何処か愛しいその手に、私は一瞬硬直した。

「お一人にして寂しい思いをさせてしまいましたか?さん?」

「う、右京さん!?」

思わぬ人物の声から、私は慌てて声がする方向を向いた。そっと離された手から見えたのは微笑みながら私を覗き込む杉下だった。
視界に入った人物に、慌てて私も手を離した。

「只今戻りました」

「お、お帰りなさいです・・・」

面食らった私に対し、杉下は微笑んだまま答えた。私の心の中の何かが疼いた気がする。どうして、こうもタイミング良く現れるんですか・・・?

「どうかされましたか?」

黙ったまま自分を見つめる私に、杉下は首を傾げて聞いた。

「い、いえ・・・。右京さんこそどうしたんですか?亀山先輩は・・・?」

慌てて私は首を振り、誤魔化すように杉下に問うた。事件を解決したには早過ぎるし、亀山の姿が見当たらない。

「ああ、彼には今事件の事で調べに・・・。僕は別の物を調べる為に戻ってきました」

「そうですか・・・」

そう言って杉下はコート掛けに向かい、コートを引っ掛けながら答えた。私も椅子を杉下の方向に向けて答え、ふと視線を逸らした。

・・・一体何時入って来たのだろうか?

音もなしに入って来た杉下が後ろに立っていた事など無論気が付かなかった。
もし突っ伏している所から見られていたのなら・・・そう思った私は頬を赤く染めた。
聞かれては困るような独り言は言ってないが、恥ずかしい話である。ましてや目の前に立っている人物を思っていたなど・・・。

「ところでさん」

「は、はい!?」

「紅茶は如何ですか?」

「え?あ、頂きます・・・」

赤くなった頬を両手で隠しながら、私は答えた。分かりましたと短く答えた杉下は、私に背を向けて紅茶を注ぎ始めた。
そんな杉下の背中を見つめながら、私はそっと手を伸ばした。



触れるか触れないかの距離

手を伸ばせば届く距離に居るのに

・・・触れられない

浮かび上がった思いを、私はまた瞳を閉じて遮断した



この瞬間だけ、そう思ってしまった自分に苦笑した。困らせるのは目に見えているのに・・・。
瞳を開け、伸ばしかけた手を引っ込めて、私はデスクに広がった書類に手を伸ばした。
・・・がその手は後ろから伸びてきた別の手によって途中で止められた。

「・・・え!?」

私の手首を、後ろから杉下が優しく掴んだのだ。



「・・・伸ばしかけた手を引っ込めるのは」



そう一言置いて、杉下は私の手首を掴んだまま、後ろからそっと私を抱きしめた。

「僕の期待を裏切る行為ですよ」

「右京さん!?は、離して下さい・・・!」

杉下の思わぬ行動に、私は頬を赤らめながら身をよじる。

「・・・一つ聞いても宜しいですか?」

そんな私を知ってか知らずか、抱きしめたままの格好で杉下は私に言った。

「何故本当の思いを隠されるんです?」

「・・・!」

杉下の言葉に、私は硬直した。

「僕が気付いてないとでもお思いですか?」

「・・・気付いていたのですか・・・」

隠す意味など無かった。私の気持ちを、貴方は知っていた・・・。そう思った途端、涙が頬を伝った。
・・・かっこ悪くて情けなくて、何とも言えない気持ちが渦巻いて静かに涙が流れた。そんな私を相変わらず抱きしめながら、杉下はふと呟いた。

「好きです、貴女が」

思いもしなかった言葉に私は息を飲んで、杉下を見上げた。

「・・・え?」

「貴女からの言葉が欲しくて、ずっと待っていました。しかしそれが逆に、貴女を苦しめていたのかもしれませんねぇ・・・」

「右京さ・・・」

「女性を泣かせるなんて、僕は最低な男ですねぇ・・・」

そう言って、苦笑交じりの微笑で、杉下は静かに私の頬に触れ、涙で濡れる瞼に軽く口付けた。

「だけど、どうか瞳を閉じないで下さい。貴女の思いを僕は待っていたのですから」

「・・・・・・ハイ」

「好きです、

「・・・私もです」







臆病な私でごめんなさい

でも有難う

貴方を好きになれて良かった

大好きです、心の底から

貴方を愛している・・・








〜あとがき〜

終わった!長かった!(涙)途中アクシデントが発生しましたが、書き上げられて良かったです。(笑)

滅茶苦茶趣味丸出しの作品になってしまいましたが、許して下さい・・・。

それでは、ここまで読んで下さって有難うございました。

                                                                                 20061111