自殺だろうといわれた。すでに破産寸前で、社員のみんなに払えるだけの給料もなかったので、自分の保険金でせめて彼らに退職金を払ってやりたいとの思いだったに違いないと。生前、似たようなことを周囲に漏らしていた。そして実際、父は自殺として処理されようとしていた。
そんなとき、現れたのは二人の刑事だった。
「お父さん……本当に、自殺だったのかな」
そのうちのひとり
「いくつか、腑に落ちない点がありましてね」
もうひとり
お父さんは、殺されたのではないかと。
その半月後、父を殺害した犯人が逮捕された。工場で働いていた、若い従業員。直接あたしの知っている人ではなかったけれど、お金のことで父と激しい口論になり
犯人が連行される際、当時まだ中学生だったあたしはがむしゃらにあいつに殴りかかった。父はいざというときに頼りにならない情けない人だったが、穏やかさに中にも厳しさを備え、あたしたち家族のために毎日必死になって働く姿は幼いながらもあたしの心に深く印象を残していた。
どうして、もっと、たくさん話をしようとしなかったのだろう。どうして、もっと、父のことをたくさん知ろうとしなかったのだろう。
父を奪ったあの男
「さん」
振り上げたあたしの拳をさり気なく掴んだのは、あの紳士風の刑事だった。
彼はそれ以上、何も言わなかったが。そのあまりにも深い眼差しに、湧き上がる感情の空しく散っていくのを感じて拳を下ろした。
「もっと……もっと父さんの話、いろいろ聞いておけば、よかった」
犯人が連行され、ほとんどの警官が立ち去った後。
二人の刑事だけが残った、がらりとした工場の隅で。膝を抱えてうずくまるあたしの肩にそっと手を置いて、スポーツマン風の刑事が何かを言おうと口を開きかけて
だが、そのあとを継いだのは、もうひとりの刑事の方だった。
「 」
その言葉が、ぼろぼろのあたしの心を泥沼から引き上げてくれたのは疑い様がない。
だからあたしは、ここまで歩いてこられた。
『警視庁 特命係』
それはあたしにとって
(08.04.24)